2003年から2006年にかけて刊行された光文社の江戸川乱歩全集を第1巻「屋根裏の散歩者」から、ぱらぱらとめくって拾い読みしている。この第1巻の最初に収録されている作品はもちろん(この全集の特長は作品を青年物少年物と区別せず、発表年代順に並べていること)江戸川乱歩の処女作である「二銭銅貨」。「二銭銅貨」の話の内容についてはすでに以前にこのブログで書いているから、今日は他の事を書こう。
光文社の乱歩全集には作品と一緒に乱歩自身が作品発表後に書いた自作の解説も収録されている。「二銭銅貨」は記念すべき第1作ということもあり、自作解説もたくさん書かれている。
そのなかのひとつに、デビュー前の乱歩が「二銭銅貨」の発表機会を求めて、書き上げた原稿を当時の推理小説の有力者である馬場孤蝶という作家に送りつけたエピソードがある。原稿を郵送したものの、待てど暮らせど何も言ってこない。乱歩は業を煮やして馬場孤蝶に手紙を書く、その中に結婚式の出席伺いのように返信用のハガキを入れる。ハガキには、返事用の言葉を何種類も書いた。曰く、 一、読むひまがない。 一、読んだがつまらない。 一、原稿を紛失した。 そして、もし原稿が残って居れば直ちに御返送を乞うと書いた。その後、原稿は博文館の新青年編集部の森下雨村にも送られ、ここでも読まないなら早く送り返せとやったあげく、めでたくデビューとなったわけだ。乱歩も血気盛んな若者だった。
「二銭銅貨」は大正11年の10月に書かれた(発表は大正12年4月号の『新青年』)。大正11年という年は他にどんなことが起きたのかちょっと調べてみた。この年は西暦1922年。1月に大隈重信の国民葬があって、2月にワシントン軍縮条約調印。そしてグリコが発売。4月にサンデー毎日が創刊され、8月に小学館が設立。12月には世界で初の航空母艦「鳳翔」が就役した。
まだまだある、山田風太郎(1月)、水木しげる、山下清(いずれも3月)、ジュディーガーランド(6月)、中内功(8月)、別所毅彦(10月)が生まれた。
そして、山県有朋、樺山資紀(いずれも2月)、森鴎外(7月)が没している。
「二銭銅貨」は歴史の中の作品なのですな。
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