江戸川乱歩の処女作「二銭銅貨」と同時に書き上げた「一枚の切符」は、大正12年7月号の『新青年』に発表された。
物語は二人の青年紳士がレストランで食事をしながら、近頃話題の富田博士夫人の鉄道轢死事故の謎について語リ合うというかたちで進行する。乱歩はこの短い作品のなかで、考え抜いたトリックをてんこ盛りにする。社会背景も動機も物語性もあまり考慮したとは思えないいわばトリックの核の部分をご開帳するような作品。習作とはこういうものだろう。日本に謎解きの本格推理小説を根付かせたいという若い作家の気概がひしひしと感じられるのだ。
自殺に見せかけた殺人事件として捜査されている轢死事故が、1枚の荷物受取切符が現場付近で発見されたことから一転、今度は博士による殺害に見せかけた自殺事件と判明。足跡を偽装するユニークなトリックが、素人探偵の推理で暴かれて行くというどんでん返し。
「一枚の切符」は短いお話の中で次々に証拠が展開されて行くため、ぼんやり読んでいては、読者は途中複雑でついて行けなくなる。後の乱歩作品では考えられないことだ。そんなところに乱歩の気負いが感じられて、そこがとても面白い。
乱歩ファンになって10年です。
もう一つのサイトの現代に残る乱歩を感じられる場所の紹介が素晴らしく、また、ふと目にした物から乱歩的なテイストの物を汲み取っていらっしゃるのも、とても感性豊かなものだと
感心いたしました。暖かくなったら、浅草や上野を散策したくなりました。とても楽しいサイトです。
投稿情報: 静子 | 2009-01-25 11:21
静子さん
コメント感謝です。
「東京下町乱歩帳」もご覧になっていただけたとのこと、重ねてありがとうございます。
下町散歩のお手伝いになればうれしいです。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿情報: 乱歩帳 | 2009-01-26 13:20