「紹介者もなく、突然の申入れをお許し下さい。しかし、紹介者などなくても、小生が何者であるかは、新聞紙上でよく御承知のことと思います。
用件を簡単に申しますと、小生は貴家御所蔵の古画を、一幅も残さず頂戴する決心をしたのです。来る十一月十五日夜、必ず参上致します。
突然推参して御老体を驚かしてはお気の毒と存じ、予め御通知します。 二十面相」
(以下、略)
お馴染みの怪人二十面相の盗難予告状です。昔からテレビや雑誌でおなじみの名場面が頭に浮かびますね。二十面相という署名の横に、コウモリとか二十面相のマスクとかの絵がかいてあったりしてね。
「怪人二十面相」(昭和11年1月「少年倶楽部」)の中で、二十面相が狙う次なるお宝は、伊豆修善寺に住む日本有数の美術収集家である日下部左門氏が自家美術館に所有する、国宝級の日本画の数々でした。
雪舟や探幽など教科書に出ているような、古来の大名人の作はほとんど洩れなく集まっているといってもよい程で、何百幅という数になるという話です。
怪人二十面相は、なんと明智小五郎に変装して美術品を警護すると偽って、日下部城に侵入してまんまと古画を根こそぎ盗み出します。
二十面相のセリフがかっこいいんです。
「この僕がですか。この僕が明智小五郎だとおっしゃるんですか」
明智はすまして、いよいよ変なことをいうのです。
「きまっておるじゃないか。何を馬鹿なことを‥‥‥」
「ハハハ‥‥‥、御老人、あなたこそ、どうかなすったんじゃありませんか。ここには明智なんて人間はいませんぜ」
(以下、略)
乱歩の少年物に私がワクワクしたのは明智小五郎がかっこよかったのも勿論なんですが、二十面相の粋なところも大好きだったわけです。
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