「パノラマ島奇談」という傑作があります。乱歩的ユートピア小説であり、描かれている楽園の描写は読むたびに私の心を強く刺激します、だからって動物園でフラミンゴの群れを見るたびに、パノラマ島を幻視するのは自分のイメージ貧困のせいだと自覚してわけですが‥‥。
「パノラマ島奇談」(大正15年10月「新青年」)には明智小五郎によく似た男が登場します。その名を北見小五郎、神出鬼没で頭が切れる、まさに明智小五郎ですね。
登場シーンはこんな感じ、
それからというもの、広介はどこにいても、北見小五郎という文学者の目を感じました。花ぞのの花の中から、湯の池の湯気の向こうから、機械の国ではシリンダーの陰から、彫像の国では群像の隙間から、森の中の大樹の木陰から、彼はいつでも広介の一挙一動を見つめているように思われました。そしてある日のこと、かの島の中央の大円柱の陰で、広介はあまりのことに、ついにその男をとらえたのでした。「君は北見小五郎とかいったね。僕が行くところには、いつでも君がいるというのは、少しばかりおかしいように思うのだが」
(以下、略)
明智を連想させるようなまぎらわしい名前の北見小五郎は、パノラマ島に雇われた文学者というふれこみで登場します。物語の最後の謎解きのシーンは、いかにも明智という論理を展開します。しかし、かれはあくまでも北見小五郎なのでしょう。江戸川乱歩自身もまだこの頃は明智をそんなに重要なキャラクターとしては扱っていなかったように感じます。 明智小五郎が俄然目立った活躍を開始するのは、乱歩がメジャー雑誌への進出をはたしてからということになります。
「パノラマ島奇談」に関するブログを探していたら、素晴らしいのがありました。
hansyakaiさんの「クソ共を殺せ」というブログです。わたしも谷崎と乱歩の関係のことを書こうと思っていました。とても面白くて参考になりました。
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