「一寸法師」は大正15年12月から「東京朝日新聞」に連載されました。乱歩にとって初の新聞連載で、いわばメジャーデビューにあたります。明智小五郎もこの作品以降、乱歩作品の看板役者として颯爽たる活躍を始めます。怪奇趣味と謎解きと冒険、この魅力的なスタイルは、一般読者に大好評を博しました。
この作品における明智小五郎の登場シーンはこんな感じです。
上海から帰って以来約半年のあいだ、素人探偵明智小五郎は無為に苦しんでいた。もう探偵趣味にもあきあきしたなどと言いながら、その実は、何もしないで宿屋の一と間にごろごろしているのは退屈で仕様がなかった。ちょうどそこへ、彼の貧窮時代同じ下宿にいた知合いの小林紋三が究竟な事件を持ち込んできた。山野夫人の話を聞いているうちに、彼は多年の慣れで、これはちょっと面白そうな事件だと直感した。そしていつの間にか、長く伸ばした髪の毛に指を突込んでかき廻す癖をはじめていた。
(以下、略)
「一寸法師」の明智小五郎は、長い間上海に行っていてほんの半年ばかり前に日本に帰ってきたばかり、赤坂の菊水旅館に滞在し、上海から持ってきた自慢の支那服を着てあいの中折れをかぶったという相当派手な格好をして登場します。
現在刊行されている創元社文庫版乱歩傑作選の第9巻「湖畔亭事件」の収録されている「一寸法師」には当時の挿絵として、明智小五郎の支那服姿が描かれていますが、なんとも派手な花柄のチャイナ服で笑えます。
ヒーロー明智小五郎がかっこよく超人的な活躍をする乱歩の一連の作品は、受けに受け一気に乱歩を流行作家に押し上げていきます。しかし乱歩自身はこの作品の“変格ぶり”がはなはだ不満で、このあと第1回目の休筆をしてしまいます。
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