江戸川乱歩は文庫の全集も何種類か刊行されている。現在我が家にもその内、何種類かの全集シリーズがある。
まず、一番大規模でしかも残念なことに現在は手に入らないものとして、講談社の「江戸川乱歩推理文庫」全65巻がある。昭和62年(1987年)の9月から刊行が開始されたもので、少年探偵団シリーズ全作品、そして評論やエッセイに至るまで、可能な限り網羅された決定版である。黄色の表紙と天野喜孝イラストが新鮮だった。ここで初めて読んだ少年物の作品がたくさんあった。少年物は作を重ねるにつれて様式化し、ついにはマンネリ化するのだが、それもまたよしと思えた。継続は力だなんてね。
そして、2番目の写真が春陽堂の「江戸川乱歩文庫」全30巻。1980年代の後半からずっと続いており、現在も購入可能だ。黒い背表紙に黄色と赤の文字。表紙のイラストは銅版画の多賀新。乱歩的なエログロが横溢する全集だ。大衆文学や推理小説の老舗である春陽堂らしくクラシックな作りで、なおかつ文字も小さい。春陽堂スタイルというものか。
多賀新の表紙作品を集めた銅版画作品集も春陽堂から出版されている。こちらは銅版画を眺めながら、乱歩作品のストーリーの断片を追想して行くというオマージュものだが、なかなか味わい深い。
3番目は東京創元社から刊行されている江戸川乱歩文庫作品集。現在20冊が刊行されている。こちらの魅力はオリジナル版の挿絵がそのまま採録されていること。第1巻の「孤島の鬼」では、有名な竹中英太郎のイラストがそのまま載っている。ぼんやりと暗闇に浮かび上がるような特徴的なイラスト作品はそれこそが乱歩ワールドの象徴だと思う。
このシリーズも現在のかたちになって刊行されたのが1987年あたりで、2003年に20冊目の「悪魔の紋章」が発売されているので、全集として完結しているということではないのだろう。今後もまだ増えて行くのかもしれない。
そして最後がつい最近完結した、光文社の「江戸川乱歩全集」全30巻。
一番新しい全集刊行とあって、モダンで豪華な装丁が印象的だ。表紙は勝本みつるのコラージュ作品で飾られ、乱歩ワールドそのものがアートになっている。また毎号巻頭にカラーページを配し、資料的な写真を収録している。21世紀的な江戸川乱歩に関する解釈ということなのだろう。さらに、この全集のもうひとつの特徴としては、作品を青年物とか少年物とかカテゴライズするのではなく、発表年代順に収録して行った点。「黒蜥蜴」と「人間豹」と「怪人二十面相」と「大暗室」を順番に読んで行くという体験もこの全集ならではも楽しみといえる。この試みは私にとってはとても新鮮だった。
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