乱歩は終戦後に再開した少年物の作品に、世にも不気味な機械仕掛けの怪人を登場させる。「青銅の魔人」はこんなシーンで登場する。
銀座通りに近い橋のたもとの交番の巡査が出会った青い背広と青いソフト帽の大男。彼はよっぱらいか、両足義足のようなヨロヨロとした歩き方である。
そしてよく見ると男の両手や背広のポケットからは銀色に光った懐中時計がブラブラと垂れ下がっている。
その上、彼は体内からギリギリという歯車の軋むような音が聞こえてくる。
銀座の白宝堂という有名時計店を襲撃した「青銅の魔人」は警官に呼び止められる。以下、こんな風である。
オオ、その顔。警官も店員たちも、その顔を一生忘れることはないでしょう。
人間の顔ではない。青黒い金属のお面です。鉄のように黒くはない。銅像とそっくりの色なのです。青銅色というのでしょうか。
三角型をした大きな鼻、三ヶ月型に笑っている口、目の玉はなくて、ただまっ黒な穴のように見える両眼、三千年前のエジプトの古墳からでも掘りだして来たような、世にも気味のわるいお面です。
(以下、略)
「青銅の魔人」は、昭和24年1月から12月までの1年間、『少年』に連載された。乱歩の少年探偵団シリーズとしては、「怪人二十面相」「少年探偵団」「妖怪博士」に次ぐ第4作にあたる。しかしその間、太平洋戦争による断筆があるため、「青銅の魔人」は戦後の再開第1作ということにもなるわけで、そう思って読むと筆は滑らか、構想は自由、少しデタラメというか印象だ。作風はどこかアメリカ的でハリウッド的。この後に続くシリーズ作品も「虎の牙」や「透明怪人」や「宇宙怪人」というように全速力で突っ走っていく。乱歩の戦後が始まった。僕らは批評することも忘れてただただ恐れ入って乱歩ワールドに溺れていくのだ。
ここからの乱歩がまた楽しいのである。
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