日経新聞の週末の夕刊には『文学周遊』と題する日本文学の名作の舞台となった名所旧跡を紹介するコーナーがある。本日は、乱歩初期の傑作「D坂の殺人事件」と東京・団子坂。
この紙面のコーナーで、筆者はこの作品の題名の妙に着目している。「D坂の殺人事件」が。もし「団子坂殺人事件」だったら、あのような結末に至る事件の猟奇性は示唆されなかっただろう。という具合である。大正時代の文学作品には「S組合」とか「H分署」とか固有名詞の一部をアルファベットにしたものが多かったそうで、これが時代の新しさや都会の空気を表していたということだ。そう思えば、乱歩作品の中で何気なく読んでいた『G街』や『M駅』から時代の息吹きが伝わってくるようだ。
また、もうひとつ当時の『D坂』周辺が、明智小五郎のような高等遊民(!)が暮らすに相応しいハイカラで知的な町であったということも指摘している。
「行きつけの喫茶店で、冷やしコーヒーを啜る」という都会的なライフスタイルがD坂では自然だったのだろう。我が家にも近い“谷根千”が一層憧れの町に思えて来た。
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