「陰獣」の主人公である探偵小説家は、帝室博物館で謎の美女小山田静子に出会う。以下乱歩の描写はこんな感じで、
わたしは何かしらゾッとして、前のガラスに映る人の姿を見た。そこには、今の菩薩像と影を重ねて、黄八丈のような柄のあわせを着た、品のいいまるまげ姿の女が立っていた。(中略)彼女は青白い顔をしていたが、あんなにも好もしい青白さを、わたしはかつて見たことがなかった。この世にもし人魚というものがあるならば、きっとあの女のような優艶な膚を持っているに相違ない。どちらかといえば昔風のうりざね顔で。まゆも、鼻も、口も、首筋も、肩も、ことごとくの線が優に弱々しく、なよなよとしていて、よく昔の小説家が形容したような、さわれば消えていくかと思われるふぜいであった。わたしは今でも、あの時の彼女のまつげの長い、夢みるようなまなざしを忘れることはできない。
しかし、しかし、彼女の青白いなめらかな皮膚の上に、かっこうのいいなよなよとしたうなじの上に、赤黒い毛糸を這わせたように見えるエロティックなミミズ腫れがのぞいていた‥‥。
クリステルはいやもとい、小山田静子は昔袖にした男である猟奇探偵小説家、大江春泥に脅されつきまとわれ、年の離れたのサディストで金満家の夫、小山田六郎には夜ごと乗馬用のムチで苛められと、もうもうかわいそうでエッチでたまりません。でも、実は小山田夫人は、マゾヒストで殺人鬼で色魔で一人三役を演ずる恐ろしい女なのです。僕は毎晩テレビを見るたびにうなじに目がいって、どきどきしてしまう。
コメント