この奇妙なタイトルの短編は、大正14年3月に新青年に発表された。
新青年編集部では、前作の「心理試験」が好評だった乱歩に対して、6ヶ月連続で作品を発表するように依頼し、「黒手組」はその企画の第2作目。その後、続いて「赤い部屋」「幽霊」「白昼夢」「指輪」など発表していくが、乱歩的にはどの作品にも満足がいかず、行き詰まりを感じていた。この「黒手組」にしても、出来映えにはまったく満足していない。激しい自己嫌悪に苛まれたと、後のエッセイの中で書いている。
「黒手組」は探偵趣味の主人公の語りで進行する。その主人公は「D坂の殺人事件」と同じ人物で。明智小五郎の友人である売れない物書き稼業の青年。彼は自分の叔父の愛嬢が「黒手組」という誘拐団に攫われて、身代金を要求されるという事件に巻き込まれ、明智小五郎に事件の解決を依頼する。
娘の失踪前に届けられた不思議な暗号の手紙、身代金受け渡し現場の消えた足跡の謎。明智はそれらを鮮やかな推理で解明する事で誘拐された娘を取り戻し、事件を見事に解決する。そしてこの誘拐事件の裏側に隠されていた真実を語る事で物語は完結する。
という物語だが、乱歩自身が述解するように物語の立て付けは安っぽい。提示した暗号トリックも「ニ銭銅貨」のような美しく整ったものではない。メロドラマのような筋書きも残念な感じが漂う。
という事で「黒手組」は、江戸川乱歩ワールドが確立されていない時期の作品としての生な感じを楽しみながら読むべきだと、私は思っている。
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