すごいタイトルだ。廃人という言葉は最近は聞かなくなった。でも乱歩の時代はしっくりと来ていたんだろうな。
うららかな冬の温泉場の午後のひと時、二人の“廃人”が静かに火鉢を囲んでお茶を飲んでいる。一方の廃人の斉藤氏は、青島の役の戦闘で被弾して、無惨な容貌と体になってしまった体験談を語る。それに続いてもう一方の廃人である井原氏は、夢遊病の最中に犯した殺人の罪の意識に苛まれ、一生を棒に振ってしまった話を語る。話をじっと聞いていた斉藤氏が投げかけた疑問が、井原氏の心に衝撃的を与える。黒雲が湧き上がるような疑惑と悔恨が井原氏を揺さぶって、物語は後味悪く終わる。
「二廃人」は大正13年に『新青年』の掲載された。乱歩にとってはデビュー4作目にあたる。夢遊病者を犯罪に取り上げてそれをまた一捻りするという、いかにも乱歩らしい嗜好の小品で、私はなかなか好きだ。「二廃人」は発表当時も読者の間で好評を博し、初期の代表作の一つに数えられている。乱歩も前作の「恐ろしき錯誤」でぺしゃんこになった自信を取り戻すことができた。
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