東京下町貼雑帳

巨人の影に襲われる貴婦人「緑衣の鬼」その２

すると巨人の手はパッと光線の中から消え去ったが、またたくひまもなく、今度こそ実に恐ろしいことが起こった。もう決して偶然ではない。再度屋根から這いおりてきた悪魔の手には、諸刃の鋭い短剣がにぎられていた。刃わたり一丈もあるかと思われる黒い短剣の影が、ブルブルふるえながら、舗道にうずくまっているお嬢さんを目がけて、サッとひらめいたのである。
（以下、略）

江戸川乱歩の「緑衣の鬼」は、『講談倶楽部』に昭和11年1月号から12月号まで連載された長編小説。前回のブログでも書いたが、この「緑衣の鬼」はフィルポッツの小説「赤毛のレドメイン家」を下敷きにした翻案小説である。乱歩はフィルポッツの原作の上に、自分の書きたい描写を自由に重ねて行く。楽しげである。

私はこの「緑衣の鬼」の中にいくつか大好きな場面があって、乱歩といえばそれを思い出す。これから何回かはその紹介をしたいと思う。

っで、冒頭の引用だ。このシーンは作品のプロローグ部分。場所は夜の銀座。デパートの屋上から照らされるサーチライトが銀座の街頭に巨大な影絵を作り出す。影絵は殺人者の手の形となって、ヒロインに襲いかかる。乱歩の大好きな大都会とレンズと光と影。「緑衣の鬼」はこうしてスタートする。お楽しみはこれからだ。

浅草「新世界」の写真（２）

前回に引き続いて、satoruさんから送っていただいた浅草新世界に関する貴重な写真を紹介します。とても興味深いです。

左側の写真を見てくださいな。屋上階にスカイウェイというロープウェイが描いてあって、浅草寺境内へと書いてある。竣工当時はこのようになっていたのだろうか、俺が知っていた浅草新世界にはこんな施設はなかったように思うのだが、本当はどうなんだろうか？

あとはこんな写真もありまして、興味深いなあ。
   これはマンモスキャバレーと書いてあるところだろうか。いかにも浅草っぽい艶かしい踊り子さん達の写真だ。和風で湿り気がある。エロっぽい。
左側の写真のセット料金750円とか御指名料400円が時代を感じさせる。今ならゼロが一つ違うくらいの感覚なのか、そうなるとセット料金はともかく指名料がちょっと高いか？どうなんだろう。前に一度、新宿の巨大なキャバレーに行ったことがあったけど、そんな雰囲気なんだろうなあ。

お次ぎの２枚の写真はどうやら1階の浅草名店街や地下の飲食街の店舗案内図のようだ。少年時代によくつれていってもらった、おにぎり屋「たんぼ」も出ている。

どうです。面白いでしょう。実はまだもう少し写真があります。もう1回くらい紹介できそうです。ではまた。

浅草「新世界」の写真（１）

以前、このブログで「乱歩と浅草と『浅草新世界』」という投稿を行いまして、もし「浅草新世界」のことをご存知の方がいらっしゃったら、ぜひ情報をください。とお願いしたところ、satoruさんからコメントをいただき、今回とても貴重な「浅草新世界」の写真を送っていただいた。
なんでも、satoruさんのおじいさまが「浅草新世界」をつくられたということで、当時の資料に残っていた写真を複写してデータを送ってくれました。どれも素晴らしい写真ばかり、ほんとうにありがとうございました。

「新世界」が営業をしていた頃は俺もまだ少年で、建物全体の構造はまったくわからずに、遊んだ場所だけが断片的に記憶に残っていた訳だが、今回の写真を見せてもらって、自分の知らない場所に他にどういうものがあったのかが、だんだんわかって来た。要するに1階の名店街のおにぎり屋（たんぼという屋号らしい）と、５階と６階のマジックランドしか記憶がないのだ。あの当時もし俺が大人だったら、さぞや面白い遊び場だったんだろうと想像できる。まことに残念である。

今回はこんなところで。送っていただいた写真はまだあるので、また次回ご紹介させていただきたい。