怪人二十面相はみなさんご存知のように変装の達人である。明智小五郎から謎の老人まで何にでも化ける。江戸川乱歩の少年物の傑作「怪奇四十面相」では、それがさらにパワーアップされることになる。
「怪奇四十面相」は光文社の月刊誌『少年』に27年1月から12月まで1年間にわたって連載された。作品の冒頭は前作「透明怪人」の大団円から連続性をもってスタートする。明智小五郎と小林少年の大活躍によって拘置所に収監された二十面相が獄中から発する改名宣言(!)と脱走予告を高らかに新聞発表するのだ。
「おれは明智小五郎に負けたが次はリベンジしてやる。こんな拘置所はいつでも脱走してやる。世間はおれを二十面相というがおれは不満だ。おれの顔は少なくともその二倍はある。だからこれからはおれを四十面相と呼べ」
という具合だ。今だったら亀田兄弟もびっくりの自信満々である。
それで、物語が始まると四十面相はまずは、予言どおり拘置所をまんまと脱走する。変装の達人にふさわしく宿敵明智小五郎に変装しての正々堂々(?)たる逃げっぷりだ。でも面白いのはここから後で、明智に変装して逃げた四十面相を小林少年はちゃんと見破って尾行する。小林少年に追い詰められた四十面相は、今度は気球にぶら下がって空を逃走する。気球がどんどん萎んで、街中に落下していく。とうとう追い詰めて落下点に行ってみると誰もいない。あるのは郵便ポストだけ。
「その町かどのコンクリートの塀の前に、赤いポストが立っていました。遠くの街燈のひかりが、ボンヤリと、それをてらしています。その赤いポストが、しずかに、しずかに、ジリッ、ジリッとまわっているのです。コンクリートでできたポストが、まるで生きもののように、からだをまわしていたのです。
ポストの上の方に、手紙をいれる横に長い穴があります。そのまっ黒な穴のなかから、なにかキラッとひかるものが見えました。目です。(中略)
つぎには、もっと、みきのわるいことが、おこりました。
赤いポストが、まわるだけでなくて、横にうごきだしたのです。ゆっくり、ゆっくり、まるで虫がはうように、コンクリートの塀にそって動いているのです。(中略)
ところが、そのつぎには、もっと、もっと、おそろしいことが、おこりました。
ポストの下の石の台が、ユラユラと動いて、その下から、黒い手ぶくろをはめた、人間の手が二本、ニュッと出たのです。そして、その手が石の台を、かるがると持ちあげたかとおもうと石の台も、赤いポストも、クルクルと、まきあがるように、上の方へちぢんでいくのです。
(以下、略)
すごい! 四十面相は提灯のような仕掛けのポストの衣装を下からたくし上げて脱いだわけです。ナイナイとかダウンタウンのコントのネタのようですな。さすが四十面相というかさすが乱歩さんである。
二十面相はこの他の作品でも、変装というよりもコスプレに近いような楽しい変装をしていくが、この郵便ポストはかなりスゴイ。また機会を見て紹介します。これもシリーズ化していこう。そうしよう。
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