江戸川乱歩の少年物シリーズは昭和11年1月『少年倶楽部』に発表された「怪人二十面相」から始まる。乱歩の少年物は明智小五郎と小林少年、そして怪人二十面相の3人をレギュラー出演者として、続々シリーズ展開していく。マンネリとか焼き直しとか子供だましとか色々言われているが、少年物というのはそういうもので、そのお約束がたまらなく楽しいのだ。私は今後も少年物シリーズの共通点や相違点を並べてたててあれやこれや言っていきたい。
シリーズ第1作の「怪人二十面相」において、明智小五郎の登場シーンはこうだ。
小林少年が東京駅にやって来たのは、先生の明智小五郎を出迎える為でした。名探偵は今度こそ本当に満州から帰って来るのです。
明智は満州国の招きに応じて、ある重大な事件に関係し、見事に成功を収めて帰って来るのですから、いわば凱旋将軍です。本来なれば、外務省や陸軍省などから、大勢の出迎えがある筈ですが、明智はそういう仰々しいことが大嫌いでしたし、探偵という職業上、出来るだけ人目につかぬ心掛をしなければなりませんので、公の方面には態と通知をしないで、ただ自宅だけに東京着の時間を知らせておいたのでした。それも、いつも明智夫人は出迎えを遠慮して、小林少年が出かけるならわしになっていました。
(以下、略)
昭和11年の1月といえばあの226事件のわずか一ヶ月前、中国では満州国が成立し日本国内では軍部が台頭、第二次世界大戦に向かってずんずんと突き進んでいく時代。陰謀渦巻く満州国へ明智小五郎が出掛けていくというのもまさに時代の必然性があるようだ。また何よりも満州帰りはその時代もっともトレンディで仕事の出来る男にライフスタイルだったのだろう。駅に降り立つ明智はとてもかっこいい。こんな感じだ。
サーッと空気が振動して、黒い鋼鉄の箱が目の前を掠めました。チロチロと過ぎていく客車の窓の顔、ブレーキのきしりと共に、やがて列車が停止しますと、一等車の昇降口に、懐かしい懐かしい明智先生の姿が見えました。黒い背広、黒い外套、黒いソフト帽という、黒ずくめのいでたちで、早くも小林少年に気づいて、ニコニコしながら手招をしているのです。
(以下、略)
この後、明智小五郎は外務省の辻野と名乗る男に変装した怪人二十面相と初対面する。
ところで気になるのは、明智夫人の文代さんだ。「人間豹」の冒頭では新婚で元気いっぱいの文代さんだったが、誘拐され、熊の着ぐるみに閉じこめられて虎に襲われる恐ろしい経験をして以来、あまり積極的に読者の前に登場しなくなる。
さてさてその後、明智小五郎はそして文代さんはどうなるのだろうか?
さらにさらにブログは続く。
コメント