またまた人間豹を読んでいる。私はつくづくこの怪奇な作品が好きである。
今回は文代さんのことを考えながら読んでいる。文代さんとは言うまでもなく、「吸血鬼」の事件のあと結婚した明智小五郎夫人である。新婚ほやほやである。
作中、明智の登場シーンで、乱歩はこう説明している。
明智小五郎は「吸血鬼」の事件の後、開化アパートの独身住いを引き払って、麻布竜土町に、もと彼の女助手であった文代さんという美しい人と、新婚の家族を構えていた。その家庭が同時に探偵事務所であった。夫婦ともに探偵好き冒険好きなので、家庭と事務所とを別々にする必要はまったくなかったのだ。
(以下、略)
ということで、その家庭には林檎のような頬をした詰襟服の愛くるしい、少年助手の小林くんも同居していた。
人間豹に登場する文代さんは可愛いし勇敢である。明智の登場を警戒する人間豹に脅されても、文代さんは平気で危険に飛び込んで行く。明智を助けて大活躍を演ずるが、遂に人間豹の魔手に落ちてしまう。そしてあの問題の、人間豹のクライマックス、虎と熊の食うか食われるかの対決シーンが始まる。虎は本物の獣(実はなぜか豹)だが、熊は文代さん(裸に剥かれて睡眠薬で眠らされ、身ぐるみのなかに閉じこめられている)である。虎の雄叫びで眠りから覚めた文代さんは、死ぬほどびっくりして悲鳴を上げながら檻の中を熊の姿で逃げ回る。しかし遂に無情な虎の爪にかかって、熊の毛皮はずたずたに引き裂かれてしまう。ここからがすごい、私はこのやられ加減に、乙葉をオーバーラップさせてしまった。完全にエロオヤジだ。よろしかったら、皆さまも以下のシーンで誰かを想像しながらお楽しみを。
檻の中央には、上半身がまっ白で下半身がまっ黒な、お化けのような一物が、スックと立ち上がっていた。だが、それはなんと艶めかしくも美しいお化けであったか。熊の皮の中から現れた白くてなめらかなものは、人間の皮膚であったのだ。しかも若くて美しい女の皮膚であったのだ。
乱れた髪の毛、泣き濡れた顔、胸も腕も、上半身はあますところなく露出していた。ただ、幸いにも下半身には厚ぼったい熊の毛皮がまといついたまま離れぬので、女はその上の恥をさらすまでには至らなかった。その中に生身の美女を包んだ拵えものにすぎなかったのだ。
しかし、見物たちは、この白昼のあやかしに魂を奪われて、急にはそれと気づくこともできなかった。陸の人魚というものがあるならば、それは文字どおり陸の人魚であった。美女と野獣の混血児、怪しくも美しき半人半獣の妖怪としか感じられなかった。
(以下、略)
この後、文代さんの熊はとうとうその真っ白い素肌を虎の爪にかけられ、真っ赤な血が一筋流れる。そしてまさにとどめの一撃という寸前に明智の放った拳銃の弾が虎を倒し、間一髪救出される。
公衆の面前で裸にされて、虎の爪に傷つけられ、あわや殺されそうになる。ちょっと酷すぎやしないか?
でも、文代さんが乙葉ちゃんだったらどうよ?
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