この題名はかっこいい。「お勢登場」は大正15年に『大衆文芸』の7月号に発表された短編です。
ストーリーはこんな感じです。
肺病やみの夫、格太郎は妻であるお勢の不倫に悩みながらも、離婚を言い出せずに耐えて暮らしている。ある日、いつものように入念に化粧をして出かけるお勢を見送った格太郎は、寂しさを紛らわすように子供たちとかくれんぼを始める。ところが、隠れ場所を探すうち何気なく潜り込んだ古い長持ちの掛け金が偶然かかってしまい、彼は長持ちに閉じこめられてしまった。密閉されている長持ちの中で格太郎はどんどん息苦しくなっていく。子供達は遠くに行ってしまった。格太郎は断末魔の苦しみのなか、両手の爪でがりがりと長持ちの蓋の裏を引掻き、もがく。
そこに恋人との逢瀬から帰ってきたお勢は、押し入れの中から何やらがりがりと音がすることに気づく。
長持ちの中に夫が閉じこめられてしまったことに気づいたお勢は、一度は助け出そうと掛け金を外して、ちょっと蓋を持ち上げたがまた元通りぐっと蓋を押さえつけて掛け金をかけてしまう。
しばらくして検死も済んで、長持ちから格太郎の死体も運び出されて、長持ちの蓋の裏を調べてみると‥‥、
それは影のようにおぼろげに、狂者の筆のようにたどたどしいものであったけれど、よく見れば、無数のかき傷の上をおおって、一字は大きく、一字は小さく、あるものは斜めに、あるものはやっと判読できるほどのゆがみ方で、まざまざと『オセイ』の三文字があらわれているのであった。
(以下、略)
「芋虫」の『ユルス』も怖いけど、この『オセイ』も怖いですな。抵抗できない男が、愛する悪女のために殺されてそれでも、愛しているという切ない残虐。乱歩の心の闇の部分が初期の作品にはコンコンとあふれ出ています。
少なくとも「蜘蛛男」より前の作品は、粗っぽいけれど、とんでもなく怖い話が出てきます。何度も読み返して見たくなるほど魅力的であります。
はじめまして、私も乱歩の大ファンです。
「お勢登場」の格太郎、長持ちの中での地獄の苦しみから蓋が開いて助かった!と思う間もなく天国から地獄へと突き落とされる・・・。
誰にも気づかれずに死んでいくより数倍も絶望感を味わったのでは。
それにしても爪で引掻くガリガリッていう音は相当怖いですね。
それから女も怖い・・・かなあ。
投稿情報: ろく | 2006-01-28 20:02
ろくさん
コメント感謝です。
乱歩の書く女は怖いですね。乱歩の女といえば黒蜥蜴の緑川夫人が有名ですけど、外にも魅力的な悪女が沢山登場しますね。「この役はいまの女優だったらさしずめ○○だな」なんてキャスティングしながら読んでます。
また、よろしくお願いします。
投稿情報: 乱歩帳主人 | 2006-01-29 19:10