江戸川乱歩の初期の短編小説である「赤い部屋」は現在でもなかなか人気の高い作品です。「赤い部屋」は大正14年4月に『新青年』に発表されました。
乱歩本人もいっているように、谷崎潤一郎の犯罪小説「途上」にインスパイアされて書かれた作品で、プロバビリティ犯罪小説として、それこそ偶然を装って人を殺害する様々なトリックを山盛りにして書いています。こんなに一つの小説にアイデアを沢山盛り込んだらもったいないでしょ、といいたくなるような熱の入れようです。まだ若かった乱歩はそのくらい燃えていたし、次々と面白いアイデアが湧いてきたんでしょう。
この小説の人気の秘密は、読者に対してアイデアで勝負を挑んでくる乱歩の潔さ、本格を目指す清々しい姿勢にもあるのでしょうが、やはりこの冒頭のシーンのような舞台演出じゃないでしょうか?
こんな感じです。
‥‥わざわざそのためにしつらえた「赤い部屋」の、緋色のビロードで張った深い肘掛椅子にもたれこんで、今晩の話し手が、何事か怪異な物語を話し出すのを、今か今かと待ち構えていた。
七人のまん中には、これも緋色のビロードで覆われた一つの大きな丸いテーブルの上に、古風な彫刻のある燭台にさされた三梃の太いロウソクが、ユラユラとかすかに揺れながら燃えていた。
部屋の四隅には、窓や入口のドアさえ残さないで、天井から床まで、真紅の重々しい垂れ絹が豊かな襞を作って懸けられていた。ロマンチックなロウソクの光が、その静脈から流れ出したばかりの血のようにドス黒い色をした垂れ絹の表に、われわれ七人の異様に大きな影法師を投げていた。そして、その影法師は、ロウソクの焔につれて、幾つかの巨大な昆虫ででもあるかのように、垂れ絹の曲線の上を、伸びたり縮んだりしながら、這い歩いていた。
(以下、略)
今でこそ、映画やMTVなんかで映像化されそうな幻想的なシーンですが、これが乱歩の筆から創造された世界だと思うと、また美しさと怪しさがひとしおではありませんか?
ねっ、乱歩的ですよね。
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