西麻布の交差点といえばA氏かもしれないけれど、浅草公園で「どっかでお目にかかりましたね」なんて声をかけられたら、これは絶対に乱歩の「モノグラム」ですな。
「モノグラム」は、大正15年7月「新小説」に発表された作品で浅草趣味がよく出ていて私は大好きです。
例えばこんな感じで、
公園といっても六区の見世物小屋の方ではなく、池から南の林になった、共同ベンチのたくさん並んでいる方ですよ。あの風雨にさらされて、ペンキがはげ、白っぽくなったベンチに、又は捨て石や木の株等に、ちょうどそれらにふさわしく、浮世の雨風に責めさいなまれて、気の抜けたような連中が、すき間もなく、こう、思案に暮れたという恰好で腰をかけていますね。(中略)すると、やっと男が口を切るのですね、「どっかでお目にかかりましたね」って、おどおどした小さい声です。多少予期していたので、私は別に驚きはしませんでしたが、不思議と思い出せないのですよ。そんな男、まるで知らないのです。
結局主人公の栗原は声を掛けてきた田中を通じて、そこから田中の亡き姉、すみ子の秘密を知るという、いかにも乱歩の初期短編らしい、凝った不思議なストーリーが展開されるわけです。
っで、なんだっていうと、西麻布とかA氏とか読んでいたら、自分なりに色々な妄想が次々に浮かんでしまったわけで、自分も明日辺り、「どっかでお目にかかりましたね」っていきなり誰かにいわれそうな気がしたわけです。
西麻布交差点氏は、貴兄が書生を務めるのではないかと思ったあの方なのよ。
投稿情報: けいすけ | 2005-08-08 15:45