乱歩好きの間で乱歩作品の人気投票をやると必ずベストスリーに入ってくる作品。私も何度も読んだし、また再読するたびに新しい発見がある名作です。猟奇も残虐も推理もゲイも差別表現も満載で、乱歩のエッセンスのすべてがつまっているといえます。また過剰なほどに乱歩的なわりには、筋書きに破綻がないという珍しい作品でもあります。
日本の推理作家でもこの作品を乱歩のペストに挙げる人は多く、今まで随分たくさんの「孤島の鬼」に関するオマージュを読んできたものです。私はその中で、特に中井英夫の評が好きで、中井を読むと「孤島の鬼」に戻り、読み終わるとまた中井の評を読んでみたくなり往復していました。つくづく暇な読書生活をしていたものですが。
「孤島の鬼」の物語は主人公の美青年が、これまた美しい少女と恋に落ちるのをきっかけに、この世のものとは思えないような、怖い体験や不幸な状況に次々とはまっていき、どんどん転落していくという、暗く、重く、濃い内容です。でも最後にはなんだか納得できるハッピーエンドになったりして、その達成感がこれまたうれしいわけです。思えば乱歩作品っていうのは、長編で書き出し部分が素晴らしいほど、後半にはストーリーの辻褄が合わなくなることが多くて(だから明智小五郎がでてきて、無理やりお話を収束させるわけです)、なかなか気持ちのよいエンディングが味わえないものですが、これはいいです。髪の毛が全部白髪になっても、最後がこれならまあいいかななんて思ってしまいます。
最後に「孤島の鬼」を読むなら、新しい光文社文庫の「江戸川乱歩全集シリーズ」第4巻をお奨めします。「孤島の鬼」と「猟奇の果」のカップリングになっています。この2作品はほぼ同時期に発表されて、内容的にも割合似たような世界を描いているのですが、傑作と失敗作の好対照となっています。比べて読むととても面白いかも。
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