この作品から一人称の語りの文体がいかにも乱歩らしくなってくる。
主人公は死刑囚として収監されており、まさに近々刑の執行が行われる。死を前に主人公は教誨師に自分の“本当の”罪を打ち明ける。
双子やまったく同じ顔を持つ他人をあつかった推理小説は、大正期にはとてもたくさん書かれた。乱歩も横溝正史も面白いものをたくさん書いている。今の時代よりも双子は珍しかったから、とても運命的で神秘的な現象に思われたのだろう。双子の間なら、何か起こっても不思議ではないと。
主人公は双子の兄の家に忍び込んで、庭の空井戸の前で後ろから兄を細引きの紐で絞殺する。まったく同じ顔、背丈、着物の人間が無言でもみ合う白昼夢のような殺人現場。兄の方は自分を殺そうとする相手の顔が見たくて、懸命に首を後ろに回す。瀕死の状態で首だけがゼンマイ仕掛けのようにじりじりと主人公の方に向けられていく。乱歩の小説の怖さは一人称の心理描写で倍化される。
まんまと、資産家の兄に成りすました主人公は、金と妻を手にして享楽的な生活を送る。そして放蕩の末に犯した強盗殺人で逮捕され死刑囚となる。逮捕に至る過程で指紋にまつわるトリックが登場するが、この作品においては、もはやそんなトリックは重要ではない。
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