すごいタイトルだ。廃人という言葉は最近は聞かなくなった。でも乱歩の時代はしっくりと来ていたんだろうな。
うららかな冬の温泉場の午後のひと時、二人の“廃人”が静かに火鉢を囲んでお茶を飲んでいる。一方の廃人の斉藤氏は、青島の役の戦闘で被弾して、無惨な容貌と体になってしまった体験談を語る。それに続いてもう一方の廃人である井原氏は、夢遊病の最中に犯した殺人の罪の意識に苛まれ、一生を棒に振ってしまった話を語る。話をじっと聞いていた斉藤氏が投げかけた疑問が、井原氏の心に衝撃的を与える。黒雲が湧き上がるような疑惑と悔恨が井原氏を揺さぶって、物語は後味悪く終わる。
「二廃人」は大正13年に『新青年』の掲載された。乱歩にとってはデビュー4作目にあたる。夢遊病者を犯罪に取り上げてそれをまた一捻りするという、いかにも乱歩らしい嗜好の小品で、私はなかなか好きだ。「二廃人」は発表当時も読者の間で好評を博し、初期の代表作の一つに数えられている。乱歩も前作の「恐ろしき錯誤」でぺしゃんこになった自信を取り戻すことができた。
大変ご無沙汰をしております。
「二廃人」は冬の温泉場ののどかな静けさが好きな風景です。「心理試験」の老婆を殺害したあとのお屋敷町の静かな昼下がりなどもそうですが、現在の自動車が走りTVがしゃべりケータイが鳴っている、そんな騒々しい中で暮らしているせいかあまり物音のしない静かな生活に憧れてしまいます。
投稿情報: ろく | 2009-05-10 13:49
ろくさん
コメント感謝です。
乱歩も初期の作品ではのどかな風景がたくさん出てきますね。この時代は乱歩自身も締め切りや執筆依頼に追われていないので、のどかなんでしょうね。
今、乱歩作品をはじめから順に再読し始めたのでどのあたりから「のどか」が減少してくるか気にして読んで見ます。
ろくさんが書いておられるように、現在は騒々しい毎日です。昔は廃人になっても静かな環境にいられました。今は廃人にもなれませんねえ。
投稿情報: 乱歩帳 | 2009-05-11 12:48