私には子供の頃からずっと忘れられない暗号があります。それは乱歩の少年物の名作「大金塊」に登場する「ししがえぼしをかぶるとき、からすのあたまのうさぎは30ねずみは60、いわとのおくをさぐるべし」というやつです。
主人公の少年はある日偶然に手に入れた古い暗号文書の片割れめぐる冒険に巻き込まれ、数々の危険に打ち勝ちながら苦心の末、ついに暗号を解読し、おじいさんの残した莫大な遺産を手に入れるというお話。こうして書くと、ふーんてなもんですが、これが結構ストーリーも凝っていて、今読んでも十分に面白いです。私は30年以上もこの暗号を忘れていないし、たまにニュースで埋蔵金の話や沈没船から金塊が引き上げられたなんていう話を耳にすると、呪文のように「ししがえぼし‥‥」が頭に浮かんできます。
「大金塊」は昭和14年1月に『少年倶楽部』に発表されました。乱歩の少年物としては、「怪人二十面相」「少年探偵団」「妖怪博士」に続く4作目で、まだマンネリに落いることなくオリジナリティのある素晴らしい出来となっています。またひとついうと、昭和14年という年は戦争初期であり、以降の数年間の作品は「新宝島」とか「知恵の一太郎」とかおよそ乱歩的でなくなります。この「大金塊」の最後手に入れた金塊はたしかお国のために寄付をしたようになっていたように思います。
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